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1.俳句歴

 

 
 
 
 
 
 
 
・学生時代に短歌を習っていたが、先生が亡くなったのをきっかけに短
 歌から遠のいてしまった。しかし、いずれは短歌や俳句のような短詩
 系文学で自分を表現したいと願っていた。
・平成12年(2000年)10月に)にケアセンター成瀬のご利用者
 のための俳句の会「野ばらの会」に妻(山岸友子)と参加し、上代渓
 水先生に師事して、俳句づくりを始めた。その後、同会で木内宗雄先
 生の指導を受けた。
・平成13年(2001)年「合歓の会」に参加し、川辺幸一先生に師
 事。
・平成14年(2002年)度町田市桜まつり全国俳句大会で「能面に
 迷ひよぎりぬ冬桜」で佳作賞を受賞。
・平成14年(2002年)11月より小山健介先生に師事。
・平成18年(2006年)度NHK全国俳句大会で「少年と空の引き
 合ふ唸り凧」が秀作(高野ムツオ選)となる。
・太極拳の先輩で玉川学園の医師、故・吉利正彦先生の推薦で、平成1
 9年(2007年)3月より青山(せいざん)町田教室(現在の青山
 町田句会)に山岸友子と参加し、主宰の山崎ひさを先生に師事。
・木内宗雄先生から句会立ち上げへの協力依頼があり、「町田稲門会俳
 句同好会」に山岸友子と参加、平成21年(2009年)~令和4年(2022年)の間、出席した。
・平成30年(2018年)「「考へる人」歩き出す暑さかな」で朝日
 俳壇入選。(高山れおな選)
・令和2年(2020年)より山岸友子と共に青山町田句会幹事を担
 当。
・令和3年(2021年)より、青山新主宰・しなだしん先生に師事。
 

2.最近の俳句活動の記録

・1月20日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて8名が参加した。
・2024年1月7日に学士会館で青山初句会が行われ、壯吉が参加した。
・12月16日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて8名が参加した。
・11月18日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて8名が参加した。
・10月21日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて9名が参加した。
・9月16日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて9名が参加した。今回、
 新人が一名参加した。
・8月19日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて8名(一人は欠席投句)
 が参加した。今回、新人が2名参加した。
・7月15日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて6名が参加した。
・6月17日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて7名が参加した。
・5月20日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて6名が参加した。
・4月15日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて6名が参加した。
・3月18日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて6名が参加した。
・2月18日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて7名(一名は欠席投句)
 が参加した。
・1月23日に青山町田句会を開催し、しなだしん先生を含めて7名(1名は欠席投
 句)が参加した。先生から「動詞の使い方」についての説明があった。
・2023年1月8日に学士会館で行われた「青山初句会兼年次大会」に町田句会か
 ら、今澤昭子、山岸友子、山岸壯吉の3名が参加した。
 

3.今後の俳句活動の予定

 
・2024年2月17日に青山町田句会を玉川学園コミュニティセンターで開催の予
 定。
  

            * 『百万人の福音』誌俳句欄入選〈辻恵美子選〉

4.自選集     **  NHK全国俳句大会入選

              *** 朝日俳壇入選
 
             **** 町田市桜祭全国俳句大会入選

  
永き日の空を仰ぎぬ退職日
 
春の野に四角い貌の犬とゐる
 
鶴発(た)ちぬ彼の地に望みあるやうに *
 
能面に迷ひよぎりぬ冬桜 ****
 
木の芽風少し猫背の豆腐売り *
 
ネクタイのよくゆるむ日や鰯雲
 
秋空の高さを鳶に尋ねけり
 
見張りする鶴のみ立ちて茜雲
 
ルッターのいびつな机冬の城 *
 
土笛を頬で温めて初稽古
 
 
万作や雲まで続く棚田道
 
鼓打つ仕草のままに捨雛(すてひいな)
 
ランナーの影もスタート柿落葉
 
出迎への母にかけ寄る夏帽子
 
波音や手帳サイズの白子干
 
初夏の鳩一羽離れて反抗期*
 
廃屋へ到る轍や花葵**
 
炎天に帰るピエロの深き皺 *
 
エレベータ開くや師走の顔どっと
 
独り言多き夕べや冬菫
 
猫の添ふ句碑は草田男しだれ梅
 
土笛に古代の指紋木の芽風*
 
カナカナが片仮名で鳴く夕べかな **
 
蛍火やきつとどこかにゐる指揮者 *
 
夏帽子ヨーロッパの顔で戻りけり
 
籐椅子の父の窪みに納まりぬ *
 
囀りや時にアレグロアンダンテ
 
少年と空の引き合ふ唸り凧 **
 
ふる里の方へ多めに豆を撒く **
 
似てゐるは誰とは言はず羽抜鶏 **
 
生命線の今どの辺り薄暑の夜
 
月明の野に独り舞ふ太極拳
 
「考へる人」歩き出す暑さかな ***(2018年)
 
エッフェル塔の起き立つ絵本巴里祭 **(2022年)
 
直進のための曲身秋の蛇 (2023年)
 
 

5.最近の句から

 
☆『青山』誌2024年2月号掲載句、しなだしん先生選
 
  渾身の師の新句集深む秋
 
  折り紙の折り目の尾根に秋の声
 
  体育の日銀ぶらをやや大股に
 
  書類這ふ秋蜘蛛時に跳びもして
 
  居合抜きの藁の切目に秋の声
 

☆『青山』誌2024年1月号掲載句、しなだしん先生選

 
  直進のための曲身秋の蛇
 
  師の墓を広くしてゐる鉦叩
 
  座に着けば眠るこの頃きりぎりす
 
  まだ命ありと落蝉ひと回り
 
  老マジシャンの健在見せん敬老日
 

☆『青山』誌2023年12月号掲載句、しなだしん先生選

 
  苦瓜の窓よりショパン夜想曲
 
  大西日かつて隠し田ありし丘
 
  鳴き尽くし落ち蝉もはや重みなく
 
  肩車の父の背中や天の川
 
  胸ポケットに友への弔辞白木槿
 

☆『青山』誌2023年11月号掲載句、しなだしん先生選

 
      今年竹雨戸繰るたび入り来る
 
  蝸牛登り一文字残しをり
 
  サングラス同士で探る玻璃の奥
 
  ピカソ展出て歪む世や半夏雨
 
  夏芝居大見得を切る八百屋さん

 

☆ 『青山』2023年10月号掲載句、しなだしん先生選

   
   朝の日にさざ波起こし白牡丹
   
   富士見えぬ富士見峠や夏薊
   
   届くはずなくも噴水天目指す
   
   総会のあとの乾杯一夜酒
  
   補聴器外し梅雨の夜をやや離れ
 

☆ 『青山』2023年9月号掲載句、しなだしん先生選

 
   遠足児の下車やお喋り止まぬまま
 
   花一つづつに和傘や牡丹園
 
   何処からか分からぬが佳き草笛よ
 
   佳き色を探し会ひたる白牡丹
 

☆ 『青山』2023年8月号掲載句、しなだしん先生選

 
   納骨の従兄弟や桜吹雪く中
 
   校庭の日時計に触れ卒業す
 
   風車回して色を貰ひけり
  
   山羊運ぶ車や春の常磐道
 
   ジグザグ道ネモフィラの客蟻めきて
 

☆ 『青山』2023年7月号掲載句、しなだしん先生選

 
   跳び箱を跳ぶや舞ひ散る春埃
   
   贈られて鉢のアネモネ「チョコレート」
 
   高速道に「鹿に注意」や山笑ふ
 
   木蓮の白競ひ合ひ頒ち合ひ
 
   種袋振れば多彩な夢の音
 

☆ 『青山』2023年6月号掲載句、しなだしん先生選

 

  小さん似の温泉饅頭梅の宿

 
   鐘の音は春呼びに行く飛鳥寺
 
   古書店主の席に三毛猫春隣
 
   白梅の咲きたる下の歌碑と句碑
 
    春月へこのまま雲の馬車に乗り
 

 『青山』2023年5月号掲載句、しなだしん先生選

 
   ぼろ市に出会ふ文語訳の聖書
 
   蝋梅の咲く枝先の滴れる
 
   初稽古己が影との揃ひ踏み
 
   次々に過ぐる鳥影白障子
 
   古書店主の席に三毛猫春隣
   

 『青山』2023年4月号掲載句、しなだしん先生選

 

    冬凪やかつて黒船来たる湾

 

  喉仏のよく動く人おでん鍋

 

  係留の太き結び目冬鴎

 

  午前二時冬の双子座流星群

 

  ケーブル降り尚登り坂石蕗 (つわ)の花

 

☆『青山2023年月号掲載句、しなだしん先生選。

 
   千枚田駆け降りて来る空っ風
 
   詐欺電話防ぐ電話機文化の日
 
   リンゴ剥く私の殻を剥くやうに
 
   出たがりの妻居たがりの我小春
 
   散り紅葉掃きて栞に二三枚
 

☆『青山誌』2023年2月号掲載句、しなだしん先生選。

 
  雨粒を染めたる朝の紅葉かな
 
  おじぎ草みな眠らせて床に就く
 
  秋雲の遡りゆく川面かな
 
  今日終えて薬飲むとき虫聴くとき
 
  土の色葉の色秋の風の色
 

☆『青山』誌2023年1月号掲載句、しなだしん先生選。

  
  鈴虫よもしやお前も不整脈
 
  せせらぎや朱を惜しみなく彼岸花
 
  目鼻なき案山子(かかし)全身にて見張る
 
  この案山子亡き父に似て怒り肩
 
  案山子ゐず暫し案山子になつてをり
 
 
6.俳句関係の作品集
1.〔自句自解〕(自分の句を解説したもので、地元の人たちで回し
          ているノート「巡る日記」に掲載している)
  ・俳句のある日々(1)俳句を始めてから2015年までの句から
  ・俳句のある日々(2)2016年の句から
  ・俳句のある日々(3)2017年の句から
  ・俳句のある日々(4)2018年の句から
  ・俳句のある日々(5)2019年の句から
 
 (今後これらを読めるようにして行きます)

7.青山町田句会の紹介

・ 青山町田句会(旧・青山町田教室)は1988年ごろ創設された伝統ある句会です。
  創設以来、山崎ひさを先生(青山名誉主宰)が指導されていました。2021年から
  はしなだしん先生(青山主宰)が指導されています。
・句会は毎月第3土曜日の午前10時から12時まで、玉川学園コミュニティセンター
 で行われています。
・この句会では、当季雑詠7句を投句し、伝統的な、「各自に割り当てられた短冊を清
 記用紙に記入し、その清記用紙を回覧しながら選句し、選句用紙に7句記入して提出
 し、披講者が読み上げ、作者が名乗る」方式によって行っています。
・見学・参加を希望される方は山岸(メール:yamagishis@mui.biglobe.ne.jp)まで
 ご連絡ください。

8.俳句関係の作品から

  

             俳句のある日々(その3)

             ―2017年作の句から―

                           2021年6月30日

                                   山岸壯吉

 今回は、2017年に作った句から選び、解説いたします。

初夢や師と師の師との三人で(2017年1月11日)

 この年の初夢は神田錦町の本部道場での太極拳演舞でした。この夢では、すでに亡く

なったお二人の師と一緒でした。そのお一人は私に太極拳の手ほどきをして下さった吉

川嘉之師範でした。また、そこには、吉川先生に太極拳を指導された楊名時師家の姿も

ありました。この先生は中国から来られ、全国に多くの太極拳愛好者を育てられた方で

す。まさに夢のような演舞でした。

見えぬところこそ大切に初稽古(2017年1月18日)

 太極拳の普段の稽古を始める時の挨拶は「你好(ニイハオ)」という言葉ですが、初

稽古では、「新年好(シンネンハオ)と言いながら挨拶をします。太極拳は眼に見える

形を真似ることから始めるのですが、この年の初稽古では、「見えないところ(心、呼

吸、重心の位置等)を大切にしましょう」と言いました。

梅や咲いて花無き季(とき)担ふ(2017年1月21日)

 蠟梅は町田でも忠生公園や薬師池公園で咲くので、撮りに行きます。蠟梅の咲く時期

はあまり花が咲かないので、この花がこの時期を担って頑張っているような気がして、

句にしました。4ページ目の写真は今年の2月に薬師池公園で写したものです。

影もまた紅(くれない)宿す寒牡丹(2017年1月31日)

 近松門左衛門は「芸は実と虚の微妙なところにある」と言っています。物という実に

は影という虚があります。それで私も影についてよく句にします。この句も影の句で、

紅色の寒牡丹を見ていたら、影にも紅色が宿されているような気がしました。

ふらここで憩ふタクシー運転手(2017年2月27日)

 「ふらここ」とはブランコのことです。近くの公園の前の通りはタクシーの休憩所に

なっているようです。この日はタクシーが一台停まっていたのですが、運転手の姿が見

えなかったので、周辺を見たら、公園のブランコに乗っていました。  

啓蟄(けいちつ)や同じ床屋に三十年(2017年3月28日)

 私は決めたところをあまり変えない傾向があります。床屋さんもそうで、淵野辺から

引っ越してきたときに、2、3の床屋に行って見て、横浜線の成瀬駅近くの床屋さんに

決めました、それ以来約三十年にわたって、ここに通っています。この床屋さんには私

が写した花の写真が沢山飾ってあり、さながらフォト・ギャラリーのようです。 

花いかだ風の匠(たくみ)の描(か)く模様(2017年4月18日)

 桜が散っていかだのように集まる姿を言う「花いかだ」も好きな句材(俳句の材料)

の一つです。この句は花筏の模様がすばらしく、まるで風の匠が描いているようだ、と

いうことを詠んだものです。

稽古場は馬酔木(あしび)群れ咲く道の奥(2017年5月3日)

 太極拳教室の一つは町田市の「木曽森野コミュニティセンター」にあります。このセ

ンターの玄関までの道には、毎年馬酔木の花が沢山咲きます。馬酔木の花を見ると、こ

れから太極拳の指導をする緊張感がやわらぐような気がします。

大袈裟に倒れるパパや水鉄砲(2017年6月2日)

 親子が水鉄砲で遊んでいました。子どもが水鉄砲をパパに向けて発射すると、パパは

大袈裟に倒れます。ほほえましい光景で一句。

大役を辞して夏富士仰ぎけり(2017年6月25日)

 この年の5月まで、太極拳本部の機関誌編集を担当していました。この業務をバトン

タッチして、ほっとした心境を詠んだものです。年4回発行ですが、毎号20ページ以上

で、発行部数が一万部以上なので、精神的なプレッシャーは相当なものでした。

虹の端持ち地球大縄跳びを(2017年6月29日)

 普段は身辺で気が付いたことを題材にして俳句を作っていますが、時々は想像力を働

かせて、地球大、宇宙大の句を詠みます。この句もその一つで、空にかかった虹の両端

を持って、地球大の縄跳びをしよう、ということを詠みました。

古(こ)風鈴昔話を始めけり(2017年7月31日)

 こういう句を句会で出すと、よく「風鈴が話をするわけがないでしょう。」と言われ

ます。風鈴は話すものではなく鳴る物だ、というわけです。でも、私は俳句にも詩心が

ほしいと思っています。「風鈴が鳴る」というのは当たり前ですが、「風鈴が昔話を始

める」ということで、詩が生まれると思うのです。

浜名湖の鰻で締めるバスツアー(2017年8月5日)

 以前に、所属する音楽グループで浜松に日帰りで行った時の思い出です。撮影旅行で

使っていたバス会社のバスで行きました。浜松に着くと、まず楽器博物館で珍しい楽器

を見て、そのあと、ヤマハのピアノ工場でピアノの製造工程を見ました。そして、締め

の昼食は老舗のうなぎ屋での蒲焼き。浜松の良さを堪能した一日でした。

後ろ歩きで友と話す子花(はな)木(むく)槿(げ)(2017年9月14日)

 窓から登下校の子どもたちを見ていると、気が付くことがあります。このときも、一

人の子が進行方向に背中を向けて、後ろ歩きをしていたのです。後ろの子と話すために

。学校の方へ進みたいし、友達とも話をしたいし・・・。

廃校の庭の白線法師蝉(2017年9月18日)

 少し前に廃校になった学校の校庭に運動会で使ったと思われる白線が残っていました

。賑やかな法師蝉を聞いていたら、運動会での喧噪がよみがえるような気がしました。

廃校、廃屋、空き家、空蝉、落椿のようなものを俳句では「小さな死」と呼び、よく詠

まれます。こうようなものは、哀切を感じさせるからではないでしょうか。

菊人形芭蕉と一茶一同に(2017年9月29日)

 菊人形も好む句材(俳句のテーマ)の一つです。この年に見た菊人形には、松尾芭蕉

と小林一茶がありました。この二人は時代的に少しずれているのですが、人形は虚のも

のなので、こういうことが可能です。虚のものは時空を超越することができます。

蓋開けし湯気に勢ひ今年米(2017年10月16日)

  この年も、熊本の友人から新米を送ってもらいました。早速このお米を炊くときに観察していたら、気のせいか湯気にも勢いがあるように感じました。

山茶花や咲く勢ひに散る勢ひ(2017年11月20日)

 山茶花を見ていると、咲くときに勢いを感じるのですが、逆に、この花は散るときに

も勢いがあると思いました。 

冬天(とうてん)より一句の降りて来る気配(2017年12月31日)

 俳句の方では「句を授かる」という言い方をします。俳句を作るとき、対象を観察し

たり、対象について考えたりするのですが、そのうち、対象と自分が一体となり、向こ

うから授かるように言葉が浮かぶ、というのです。私はまだその域に達していませんが

、この日は天を仰いでいたら、一句が降りて来るような気がしました。 

 
                              俳句のある日々(2)
            ―2016年作の句から―

                                  山岸壯吉

 以前(2017年2月)に「俳句のある日々」という題で、俳句を始めてから、その

当時までの主な自作の句を紹介しました。今回は、その後の句を年毎にご紹介した

いと思います。今回は2016年に作った句の解説を試みます。

啓蟄(けいちつ)や先の見えぬが良きことも(2016年3月4日)

 現役時代は「先を見て仕事をしろ」とよく言われましたが、引退した今、先が見えな

い方が良いこともあるのではないか、と思うときがあります。たとえば、寿命がはっき

り分からないから、気楽に生きていられるのではないでしょうか。先(将来)だけでな

く後ろ(過去)も同じです。私達は記憶力の衰えを嘆きますが、適当に忘れないと辛く

て生きていられないそうです。

蕗(ふき)味噌や夢では古き家に居り(2016年3月5日)

 今でも夢には、大学生のときまで居た世田谷の家が出てきます。蕗味噌を食べていた

ら、その家と、その家での生活を思い出しました。

春深し城に童謡作家の碑(2016年3月21日)

 仕事で4年間熊本県人吉市に行っていました。住まいの近くに人吉城址があり、城門

の近くに「旅愁」、「故郷の廃家」等を作詞した犬童球渓(いんどうきゅうけい)の碑

があります。これらの曲を聴くと人吉の風景を思い出します。

三椏(みつまた)や花の終わりに秘蔵の黄(2016年3月25日)

 よく「最後に輝く」ということがあります。「果物は腐る少し前が一番おいしい」

というのも、その例だと思います。花にもそれがありそうで、庭の真ん中に植えた三俣

に毎年黄色の花が咲きますが、最後に取って置きの黄色を出します。

走り根を終(つい)の舞台に落椿(2016年3月30日)

  走り根も魅力を感じるものの一つです。近くの椿の木の下に多くの花が落ちていま

した。それらの花は走り根を飾るように皆上を向いていて、正に“終の舞台”という感じ

でした。

肥後の青金沢の青花菖蒲(2016年5月16日)

 家から車で30分くらいのところに東京百景の一つに選ばれている薬師池公園があり

ます。この公園にはいろいろな花が咲き、よく花の写真を撮りに行きます。特に6月の

花菖蒲と8月のハスの花は圧巻です。ここには全国の花菖蒲が植えられていて、気が付

いたのは、同じ青でも、江戸の青、肥後の青、金沢の青で微妙に違うということです。

初夏の風空といふ字の隙間より(2016年5月19日)

 字を見ていると、気が付くことがあります。空という字は「から」とも読みますが、

確かにこの字は隙間だらけです。この字の隙間から初夏の風が吹いて来るような気がし

ました。

どの粒も分け持つ光サクランボ(2016年5月27日)

 縁側でサクランボを食べていたら、サクランボの一つ一つが輝いていて、朝の光を分

け持っているのだな、と思いました。

星にゐて星を見てゐる心太(2016月6月6日)

 心太(ところてん)を食べながら星を見ていたら、そう言えば、今自分がいる地球も

星の一つなのだな、と思いました。たまたま人が住むことができる環境にあるというだ

けで、あとは、他の星と変わりはないでしょう。この句は、この年のNHK全国俳句大

会で、高野ムツオ先生の秀逸賞をいただきました。

汗と言ふ薄き着物の力士かな(2016年7月11日)

 相撲が好きで何回か国技館にも足を運びました。ある人が「お相撲さんは裸が正装な

のです」と言っていました。巡業で相撲が町田に来た時に、かなり近くで見たのですが

、お相撲さんは汗という薄物を着ているのではないか、と思いました。

涼風や星動くとき詩の生まれ(2016年7月27日)

 人は動くものに魅かれるようです。星も、静止しているより、流れ星に魅かれます。

一方、「静止しているものを長く眺めていると句が生まれる」と言われますが、これは、

眺めていて、対象と自分が一体となったときに詩心が動かされるのではないでしょうか。

これも「動くときに生まれる詩」だと思います。

梅干しに砂糖のおやつ祖母の家(2016年8月3日)

 小学生のころ、下校時に祖母の家に寄ると、砂糖を乗せた梅干しや、棒の先に巻き付

けた水あめを出してくれました。祖母は新潟の出身で、よく、祖母の家に新潟県人が集

まって、佐渡おけさの歌と踊りを楽しんでいました。

薬の読み逆さはリスク夏果てる(2016年8月15日)

 クスリという読みを逆さにするとリスクとなります。これは、薬とは常にリスクを伴

うものだということを暗示しているように思います。薬とは「毒をもって毒を制す」と

いうことで、それ自身も毒なのかもしれません。私達も薬についての知識を得て、必要

以上に薬を飲まないようにすることが肝心ではないでしょうか。

診察室の鸚鵡(おうむ)迎へる夏の午後(160819)

 近くの耳鼻咽喉科には鸚鵡が居て、診察室に入ると「こんにちは!」と言って迎えて

くれます。診察が終わって出るときは「お大事に!」と言って送ってくれます。この鸚

鵡に会いたくて、耳鼻咽喉科はこの医院に決めました。

髪で振る征(せい)爾(じ)の指揮や夏の夕(2016年9月2日)

 小澤征爾は指揮をするときに髪が大きく揺れます。まるで髪の毛で指揮をしているよ

うです。小澤征爾は高校の先輩です。彼の学生時代に、私が通っていた教会の聖歌隊の

指導をしていたそうです。母校の合唱団のキャロリングでは毎年指揮をしていました。

九十媼(おうな)に昇段審査九月尽(2016年9月27日)

 太極拳教室には九十歳を超えた方もいます。この年、九十五歳の方が昇段審査を受け

て見事合格されました。この方は九十歳のときに太極拳を始められました。いつからで

も始められ、いつまでも出来るのが太極拳です。

隠れんぼは稲架(はざ)の裏側足見えて(2016年10月11日)

 相模川近くの畑に稲架を見に行ったとき、近所の子供たちがかくれんぼをしていまし

た。その一人が稲架(はざ)の裏側に隠れたところ、足が見えて、すぐに見つかってし

まいました。

冬の靄(もや)魁夷の白馬横切りぬ(2016年12月16日)

 絵画では東山魁夷とモディリアーニが好きです。魁夷の絵を見ていると心が透明にな

るような気がします。靄がかかった日に、遠い山並みを見ていたら、魁夷の白馬が横切

ったような気がしました。モディリアーニの画く人物は大抵首が曲がっています。私の

首も少し曲がっているので、親近感を覚えるのかもしれません。

山岸壯吉

 

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               俳句のある日々(1)

                ― 自句自解 ― 

                                 山岸壯吉               

(俳句を始めた平成14年(2002年)から平成27年(2015年)に詠んだ句か

ら主なものを選び、解説を加えた) 

                                                                 

 私は学生時代に短歌を習っていたが、先生が亡くなったことがきっかけで、やめて

しまった。しかし、いずれは自分の気持ちを文学的に表現する手段を身につけたいと思

っていた。そんなとき、家内から、ケアセンター成瀬の利用者のための俳句の会ができ

るので、一緒にスタッフとして参加しないか、という誘いがあった。スタッフも俳句を

作らなくてはならないということだったので、俳句を始めるチャンスだと思い、参加し

た。

 その後、玉川学園のお医者さんで、太極拳の先輩だった故・吉利正彦先生から「上達

するには正式な結社に所属し、句会で鍛えてもらう方がいいですよ。」と言われ、平成

十九年に俳人協会顧問の山崎ひさを先生が主宰をされる青山町田句会に入会させ

ていただいた。

 

    能面に迷ひよぎりぬ冬桜        壯吉(平14)

 

 ケアセンター成瀬で俳句を始めて間もないころ、「町田市さくら祭全国俳句大会」に

有志で応募することになった。私もこの句で応募したところ、正にビギナーズ・ラック

で、佳作賞に選んでいただいた。この句は千駄ヶ谷の能楽堂でお能を見ていたときに

一瞬仕手の能面に迷いが現われたことを詠んだもの。

 

    水仙や俳句好みは母ゆづり      壯吉(平22)

 

 母は国文学が好きで、晩年はほとんど座ったままで、ラジオの古典講座を聴くことを

楽しみにしていた。母が亡くなったあと、母が以前、俳句を富安風生先生に習っていた

ということを兄から聞いた。もしかすると、私の俳句好きは母の遺伝かもしれない。

 

    少年と空の引き合ふ唸り凧      壯吉(平18)

 

 花の撮影で神代植物公園に行ったときに、子供たちが凧揚げをしているのを見ていて、

少年が空に挙がった凧を糸で引いているのだが、同時に空も上から協力して引いている

ような気がして作った句。この句は、平成十八年度NHK全国俳句大会で秀作賞(高野

ムツオ選)に選んでいただいた。

 

    似てゐるは誰とは言はず羽抜鶏    壯吉(平25)

 

 町田市の薬師池公園に吟行に行ったときに、句会をしてい

るテーブルの近くをうろうろするニワトリが、誰とは言えない

けれでも、誰かに似ていると思ってできた句。この句は平成二十五年度NHK全国俳句

大会で、正木ゆう子、鷹羽狩行、片山由美子の三人の先生方から佳作賞をいただいた。

 

     秋空の高さを鳶に尋ねけり       壯吉(平20)

 

 川崎市麻生区の黒川に吟行に行き、今も残る里山の風景をぼんやり眺めていたときに

出来た句。

 

     幕ごとに替るマリアや聖夜劇      壯吉(平23)

     子羊にも科白の用意聖夜劇

     樹の役の疲れて座る聖夜劇

 

 一句目、女の子は皆マリアになりたがるので、幕ごとにマリア役の子を替えるという

涙ぐましい工夫。二句目も同じような主旨で、子供を平等に扱うのが今のやり方のよう

で、子羊役にまで科白を用意していた。三句目は樹の役をやっていた子が疲れて座って

しまったという、ほほえましい光景。

 

     常よりも背伸びする富士大旦     壯吉(平27)

     風に湧き風を湧かすや叢薄

 

 一句目、元旦の富士山がいつもより堂々と大きく見えたことを詠んだ。もちろん富士

山が背伸びをするわけはないのだが、そういう感じがしたのをそのまま詠んだ句。  

 二句目もそういう傾向の句で、実際には薄が風で湧き上がるのだが、気持ちの上では、

逆に薄によって風が湧いているのではないか、と思った。

    螢火やきっとどこかにゐる指揮者   壯吉(平21)

     螢追ひいつか道なき処まで 

    すれ違ふシャネルの五番螢狩

 

 螢も好んで作る句材の一つ。一句目は、螢がリズムを合わせて明滅する様子が、誰か

に指揮をされているように感じられて詠んだ句。

 

    生命線の今どの辺り薄暑の夜      壯吉(平26)

    岐路多き生命線や菊月夜

 

 ある年齢から生命線が気になり始め、ときどき眺めている。一句目、自分の生命線は

あまり長い方ではないが、今はこの辺かな、それともこの辺かな、などと掌に触れるこ

とがある。二句目は、生命線のところどころに岐路(分かれ目)がある。そこでは人生

の選択があったのだろうかとか、これからもあるのだろうか、などと思う。

 

    ルッターのいびつな机冬の城     壯吉(平20)

 ドイツ旅行での一句。宗教改革者ルターはヴァルトブルグ城にこもり、当時翻訳を禁

じられていた聖書をドイツ語に訳した。実際にルッターが使っていた机のいびつさを見

て、彼の苛酷な生涯を感じた。

 

    噴水の先留まりをり動きをり     壯吉(平27)

 

 噴水の先は一定の高さに調節されているのだが、頂点では水が勢いよく動いている。

つまり「動きながら留まっている」ということ。

 

    廃屋に到る轍や花葵         壯吉(平21)

    廃屋や畳に残る箱火鉢

 

 廃屋には、哀れを感じるとともに、住んでいる人たちへの思いが生じる。一句目は、

熊本で見た光景。廃屋に向かう道に轍があって、そこに住んでいた人たちの生活の跡を

見たような気がした。

 

    古代語で叫ぶ土偶や花の雲      壯吉(平27)

    悠久を見る埴輪の目日脚伸ぶ

    埴輪の目も少しどぎまぎ猫の恋

 

 悠久の時を経た土偶にもロマンが感じられる。

 

    父のよく寄りし古書店秋の夕     壯吉(平22)

    更衣(ころもがえ)古書店跡に美容院

 

  古書店というものも気になる存在。それも神田神保町にあるような立派な古書店よ

り、町の片隅にある小さな古書店の方が良い。

 

 終わりに一句、

 

    生涯の一句を目指し柿落葉      壯吉(平27)

 

  これからも”生涯の一句”と言えるような句をめざして、“徘徊”ならぬ“俳諧”の道を歩
んで行きたい。


氏名:山岸壯吉

  アドレス:yamagishis@mui.biglobe.ne.jp
     

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